歌って、はじめてほめられたのは、音楽のテストのとき。
3年生の終わり頃だったと思う。
課題曲は、「紅葉 もみじ」だった。
「奥井さん、音程がいいわね」のひとことだけだったけど、
そのひと言があったから、その後、映画「サウンド・オブ・ミュージック」を観たとき、私もこんな風に歌えたら・・・なんて夢をみることができた。
だけど、私はそのテストのとき、大きな勘違いをして歌っていました。
「秋の夕日に照る山紅葉 濃いも薄いも数ある中に・・」
私は“濃い”を“恋”だと思っていたのです。
歌詞が、ひらがなだったからかな?
思い込みは激しいほうだから、そう決めちゃっていたのかもしれない。
とにかく、10歳の私は、紅葉の秘密めいた紅が恋の色なんだと思った。

紅い時は、紅葉が一番脚光を浴びる時だし、
誰もがみたいと思う瞬間なんだろうけど、
勢いよく手を挙げているような新緑時代も、
みれば清々しくて、見飽きない。
風が吹くと、ちいさな団扇のように、ふぁさふぁさと揺れている。
葉影は完璧な芸術作品のよう。
もし、暗闇にとじこめられてしまうなら、紅葉のなかに入りたい。